ヴィンテージ大会感想:ヴィンテージ選手権15 その4
2015年9月5日 TCG全般http://magic.wizards.com/en/events/coverage/vintagechamp15/top-8-decklists-2015-08-23
BRIAN KELLY’S OATH
スイスラウンド1位突破と優勝のダブル快挙.前にも書いたが,プレイヤーBrian Kelly氏とはコカトリスでよく対戦する.彼は構築・プレイング共に卓越しているため,優勝にも大きな驚きはない.
今回のデッキはサルベイジャーオースだ.オースから降臨するクリーチャーは,マジックの歴史を反映しているといってもよいくらい,環境の進歩と共に移り変わってきた.1ターンでも速い勝利に向け,巨大生物が目まぐるしく更新される中,オーリオックの廃品回収者は独自の立場を守ってきた珍しい卡だ.
それは,オーリオックの廃品回収者に,巨大生物にはない特有の持ち味があったからである.第一は,そのまんまだが軽いこと.4マナはhardcastが苦にならないコストである.第二に,いまやヴィンテージの採用数1位にまで出世した対策卡,墓掘りの檻への耐性が挙げられる.この卡は,廃品回収者の「アーティファクトを生け贄とし,また回収する」墓地利用には一切抵触しない.粗石の魔道士と組んだボンバーマンデッキが一時隆盛したくらいで,実は両者は相性が良いのだ.オースについても,ライブラリーから戦場に出るところが,ドローで手札に入る程度である.(封じ込める僧侶には通用しないが,仕組まれた爆薬や呪文爆弾を前もって設置しておくことにより牽制できる.)
サルベイジャーコンボにはもう1ついいところがある.それはコンボパーツが皆,単独で使用に耐え得る性能であることだ.と言いたいが,サルベイジャー本人は単なる4マナ2/4なので,ある程度頼れる壁という以上の評価は厳しい.だが無限コンボの燃料である爆薬・呪文爆弾・独楽は,いずれも特別なシナジーが無くとも採用される優秀な卡であり,Black Lotusに至ってはマジック最強の1枚だ.これらの卡は各々の役割を果たしながらデッキコンセプトにも寄与しており,デルバーやメンターの使うブレスト・思案・定業にも比定できるというのが僕の考えだ.
MUDや紅蓮術士・メンターに有利なオースが,檻という弱点をある程度克服したのがこのサルベイジャー型であると考えるなら,Kellyの選択は,今大会におけるメタゲームの観点からも高く評価できる.
それでは卡単位で分析していこう.
まず,このデッキで最も珍しい卡は,龍王ドロモカではないだろうか.DTKスポイラー時点で2点と付けたものの,5月に書いた反省会 http://qq1q.biz/nIKx では0点とせざるを得なかった卡である.しかし,このデッキなら,オースから出てくるのを待って気持ち良くコンボを決めるも良し,hardcastも良しである.一見,サルベイジャーの4マナならともかく,ヴィンテージで6マナ,それも準優勝デッキのようなMana Drainによる支援も無しというのでは不可能事に思われる.だが,我々が卡のコストを評価するとき,詠唱それ自体だけではなく,その前後の所作についても無意識のうちに前提している.本件の場合で言えば,フィニッシャーを唱える場合,敵のカウンターや除去,返しの危険なアクションといった脅威を警戒してこちらもカウンターを構えられるまで待つ,といった経験を踏まえている.しかし,ことドロモカについて言えば,手札・盤面双方への強烈な制圧力を備えており,極めて隙のないクリーチャーであることから,そうした慎重な判断はほとんど必要ない.ほとんどと言ったのは,相手の手札の中に即死コンボが握られている場合に限っては,ドロモカの詠唱が隙を作るおそれがあるからだ.しかし,これも3枚投入のギタクシア派の調査によって見透かすことができる.こうしたドロモカの隙のなさは,彼女を詠唱する際に事実上のコスト軽減として機能する.
もちろん,サルベイジャーコンボが成立すればドロモカだろうがエムラクールだろうが自由自在である.と書いて思ったが,願いを入れてみるのもありかも知れない.
メインのクリーチャーはサルベイジャーとドロモカ,そして究極の卡力を持つグリセルブランドの3体だが,サイドボードにも2体リザーバー(語法合ってるか不安)が用意されている.そのうち濠の大魔術師については全面的に賛成だ.これまた素出しが容易なコストだし,1枚で完封できるデッキはさすがに少ないものの,オースを再起動して勝ちに持っていくくらいの時間は優に稼げるはずだ.もう一方の鋼の風のスフィンクスについては,ドロモカでも抑え込めないような高打点の敵(ドレッジとか)に対抗する人選と思われる.別な卡に差し替える余地はあるかもしれない.
Force of Will3枚は象徴的でさえある.レガシーでこそ,FoWの減量は基本戦略と化して久しいが,同様の現象がついにヴィンテージの大舞台でも発生したわけだ.今後のヴィンテージでは,よほど大胆なB/R改訂でも行われない限り,コンボのTier1復権はないだろう.となれば,環境に占めるMUD比率によっては3枚が標準か,少なくとも驚かれはしないリストになっている可能性もある.
撤廃を使っているのはTOP8でKelly1人,32まで見ても2人しかいないようだが,これまでとは異なった作用がある.元々,溢れるMoxやトークンの存在により対象に困らず,文独楽タップに対応すればアドバンテージを取れたりと,非常に使いやすい呪文だったが,XUというコストからして,テンポアドバンテージは基本的に得られない呪文だった.ところが,今大会においては反転したデルバーや歩行機械を戻すことで,多大なテンポを稼ぎ出せるようになった.
最後に,黒の不在について触れておきたい.従来のオースはUBg(オース+アーティファクト破壊)が主流で,古えの遺恨などのためrがタッチされるような,Big Blueの正道を走るデッキだった.この中で黒の役割は次のようになる.第一にサーチ,ドルイドの誓いが来ないと始まらないのだから当然だ.第二に手札破壊,これもドルイドの誓いを守る措置である.そして最後にヨーグモスの意志が来る.翻ってこのデッキではどうか?サルベイジャーとドロモカはhardcastが可能な軽さであるため,ドルイドの誓いに全面依存まではしていない.それゆえ,絶対にサーチが必要とはいえない.手札破壊についても,前方確認ならギタクシアが代行してくれるし,ドロモカがいれば相手が何を握っていようが関係ないのだから,その価値は他のオースにおけるそれと比して落ちる.それからヨーグモスの意志だが,これは明らかだろう,墓地はあらかたDTTに食わせているし,第一コンボパーツを追放してしまっては元も子もない.
長々と書いたが,ある卡が採用されている(あるいは採用されていない)理由を尽くデッキリスト中に求めることができ,実に理にかなった構築といえる.
BRIAN KELLY’S OATH
スイスラウンド1位突破と優勝のダブル快挙.前にも書いたが,プレイヤーBrian Kelly氏とはコカトリスでよく対戦する.彼は構築・プレイング共に卓越しているため,優勝にも大きな驚きはない.
今回のデッキはサルベイジャーオースだ.オースから降臨するクリーチャーは,マジックの歴史を反映しているといってもよいくらい,環境の進歩と共に移り変わってきた.1ターンでも速い勝利に向け,巨大生物が目まぐるしく更新される中,オーリオックの廃品回収者は独自の立場を守ってきた珍しい卡だ.
それは,オーリオックの廃品回収者に,巨大生物にはない特有の持ち味があったからである.第一は,そのまんまだが軽いこと.4マナはhardcastが苦にならないコストである.第二に,いまやヴィンテージの採用数1位にまで出世した対策卡,墓掘りの檻への耐性が挙げられる.この卡は,廃品回収者の「アーティファクトを生け贄とし,また回収する」墓地利用には一切抵触しない.粗石の魔道士と組んだボンバーマンデッキが一時隆盛したくらいで,実は両者は相性が良いのだ.オースについても,ライブラリーから戦場に出るところが,ドローで手札に入る程度である.(封じ込める僧侶には通用しないが,仕組まれた爆薬や呪文爆弾を前もって設置しておくことにより牽制できる.)
サルベイジャーコンボにはもう1ついいところがある.それはコンボパーツが皆,単独で使用に耐え得る性能であることだ.と言いたいが,サルベイジャー本人は単なる4マナ2/4なので,ある程度頼れる壁という以上の評価は厳しい.だが無限コンボの燃料である爆薬・呪文爆弾・独楽は,いずれも特別なシナジーが無くとも採用される優秀な卡であり,Black Lotusに至ってはマジック最強の1枚だ.これらの卡は各々の役割を果たしながらデッキコンセプトにも寄与しており,デルバーやメンターの使うブレスト・思案・定業にも比定できるというのが僕の考えだ.
MUDや紅蓮術士・メンターに有利なオースが,檻という弱点をある程度克服したのがこのサルベイジャー型であると考えるなら,Kellyの選択は,今大会におけるメタゲームの観点からも高く評価できる.
それでは卡単位で分析していこう.
まず,このデッキで最も珍しい卡は,龍王ドロモカではないだろうか.DTKスポイラー時点で2点と付けたものの,5月に書いた反省会 http://qq1q.biz/nIKx では0点とせざるを得なかった卡である.しかし,このデッキなら,オースから出てくるのを待って気持ち良くコンボを決めるも良し,hardcastも良しである.一見,サルベイジャーの4マナならともかく,ヴィンテージで6マナ,それも準優勝デッキのようなMana Drainによる支援も無しというのでは不可能事に思われる.だが,我々が卡のコストを評価するとき,詠唱それ自体だけではなく,その前後の所作についても無意識のうちに前提している.本件の場合で言えば,フィニッシャーを唱える場合,敵のカウンターや除去,返しの危険なアクションといった脅威を警戒してこちらもカウンターを構えられるまで待つ,といった経験を踏まえている.しかし,ことドロモカについて言えば,手札・盤面双方への強烈な制圧力を備えており,極めて隙のないクリーチャーであることから,そうした慎重な判断はほとんど必要ない.ほとんどと言ったのは,相手の手札の中に即死コンボが握られている場合に限っては,ドロモカの詠唱が隙を作るおそれがあるからだ.しかし,これも3枚投入のギタクシア派の調査によって見透かすことができる.こうしたドロモカの隙のなさは,彼女を詠唱する際に事実上のコスト軽減として機能する.
もちろん,サルベイジャーコンボが成立すればドロモカだろうがエムラクールだろうが自由自在である.と書いて思ったが,願いを入れてみるのもありかも知れない.
メインのクリーチャーはサルベイジャーとドロモカ,そして究極の卡力を持つグリセルブランドの3体だが,サイドボードにも2体リザーバー(語法合ってるか不安)が用意されている.そのうち濠の大魔術師については全面的に賛成だ.これまた素出しが容易なコストだし,1枚で完封できるデッキはさすがに少ないものの,オースを再起動して勝ちに持っていくくらいの時間は優に稼げるはずだ.もう一方の鋼の風のスフィンクスについては,ドロモカでも抑え込めないような高打点の敵(ドレッジとか)に対抗する人選と思われる.別な卡に差し替える余地はあるかもしれない.
Force of Will3枚は象徴的でさえある.レガシーでこそ,FoWの減量は基本戦略と化して久しいが,同様の現象がついにヴィンテージの大舞台でも発生したわけだ.今後のヴィンテージでは,よほど大胆なB/R改訂でも行われない限り,コンボのTier1復権はないだろう.となれば,環境に占めるMUD比率によっては3枚が標準か,少なくとも驚かれはしないリストになっている可能性もある.
撤廃を使っているのはTOP8でKelly1人,32まで見ても2人しかいないようだが,これまでとは異なった作用がある.元々,溢れるMoxやトークンの存在により対象に困らず,文独楽タップに対応すればアドバンテージを取れたりと,非常に使いやすい呪文だったが,XUというコストからして,テンポアドバンテージは基本的に得られない呪文だった.ところが,今大会においては反転したデルバーや歩行機械を戻すことで,多大なテンポを稼ぎ出せるようになった.
最後に,黒の不在について触れておきたい.従来のオースはUBg(オース+アーティファクト破壊)が主流で,古えの遺恨などのためrがタッチされるような,Big Blueの正道を走るデッキだった.この中で黒の役割は次のようになる.第一にサーチ,ドルイドの誓いが来ないと始まらないのだから当然だ.第二に手札破壊,これもドルイドの誓いを守る措置である.そして最後にヨーグモスの意志が来る.翻ってこのデッキではどうか?サルベイジャーとドロモカはhardcastが可能な軽さであるため,ドルイドの誓いに全面依存まではしていない.それゆえ,絶対にサーチが必要とはいえない.手札破壊についても,前方確認ならギタクシアが代行してくれるし,ドロモカがいれば相手が何を握っていようが関係ないのだから,その価値は他のオースにおけるそれと比して落ちる.それからヨーグモスの意志だが,これは明らかだろう,墓地はあらかたDTTに食わせているし,第一コンボパーツを追放してしまっては元も子もない.
長々と書いたが,ある卡が採用されている(あるいは採用されていない)理由を尽くデッキリスト中に求めることができ,実に理にかなった構築といえる.
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