ヴィンテージにバーンは成立するか
2018年12月17日 Magic: The Gathering コメント (2)標題の件を試行錯誤中なのでここに書いて意見を募りたい。
1.序論
ヴィンテージは1ターンキルの横行する殺伐としたフォーマットだ、という誤解は過去のものとなりつつある。ヴィンテージにはアグロ・コントロール・コンボ全てが共存し、対戦の大多数において、勝者となるのは対戦相手の意図を読み切り出し抜いた者である。すなわち、このフォーマットは他と比べて特殊であったり異常である訳ではない。この辺りは以前も一度書いたことがある。
https://bagupokemon.diarynote.jp/201312222131376993/
この記事から5年の歳月において、ヴィンテージには20以上のセットが追加され、メタの中心もクロック・パーミッション勢から逆説へと移った。だが、下掲の趣旨2点は今も変わりない。
・Solomoxenはヴィンテージ特有のマナ加速と考えられているが、1ターンキルのみを考えるならレガシーの卡槽で同等の効果を再現できる
・ヴィンテージはコンボ性能だけでなく妨害も最高級の卡が揃っており、それらの均衡によって一定のゲームスピードが保たれている
ここで一つの問題提起がある。ヴィンテージとレガシーの速度に大差がないのなら、なぜバーンデッキはレガシーにのみ成立し、ヴィンテージにおいて成立しないのか?
2.逆境としてのヴィンテージ
これについては、いくつかの仮説を試みることができるだろう。僕が考えるならば...
a.戦略の単純性
一般に、デッキは複数の戦略の結合から成り立つ。技巧あるプレイヤーは、構築やプレイングはたまたサイドボーディングのレベルでそれらの比率を操作し、勝利に近づく。例を挙げてみよう。
・パーミッションは、ドローとカウンターの結合である。アグロと当たった場合、カウンターを序盤から使っていって相手がクロックを確立することを許さないことが主眼であり、ドローは息切れ防止の手段となる。同系と当たった場合、ドローによる手数で上回った者が勝者であり、カウンターは自分のドローを通し相手のドローを通さないために使うべきだ。
・Workshopは、アーティファクトしか使えないというデッキ構築上の大幅な制約と引き換えに圧倒的なマナ生産力を実現する。その土台の上にロックとクリーチャーを両立したデッキである。その歴史を顧みれば、かつてロックが主・クリーチャーが従であったところ、B/R改訂を含む卡槽の変遷により主従の逆転が起こったといえる。しかしながら、Workshopの使い手はサイドボーディングにおいてロック:クリーチャーの比率を調節する:相手が逆説ならばクリーチャーを減らして無のロッド等のロックを追加し、ビッグプレイを封じることが何より重要だ。一方、同系を含むアグロに遭遇した場合は盤面を見据える必要があるーロックを減らして先駆のゴーレムといった制圧力あるクリーチャーを投入する。
自分のデッキに内包された戦略とその相互作用を把握し、相手に応じてその分量を調整することはフォーマットを問わず行われることだ。しかしながら、ヴィンテージにおいてはデッキを特定の方針へと特化させようとする傾向が強い。Workshopやドレッジに代表される極端なデッキリストは、その証明だ。それゆえ、右の技術はヴィンテージで特に重視されると言ってよかろう。
バーンにあるのは山と炎だけだ。デッキ全部が同じ役割で統一されている。ゆえにどのようなデッキが相手でも自分の道を突き進むことしかできず、脆い。
b.レガシーからの進化の乏しさ
あるアーキタイプが複数のフォーマットで構築されることは多い。例えばドレッジは、フォーマットによる進化が容易に見て取れるアーキタイプの1つだ。モダンではそこまで素早く墓地を肥やすことができない。これがレガシーでは打開・LEDによって初手手札全捨てまで可能となる。そしてヴィンテージでは狂気に満ちた土地Bazaar of Baghdadを手にする。
バーンの場合、モダンからレガシーにかけての進化は明らかだ。最も稲妻に近い1マナ3点火力:稲妻の連鎖。未曾有の0マナ4点火力:火炎破。そして:発展の対価。これら高パフォーマンス呪文が加入することにより、バーンはもはやボロスの魔除け等のために白をタッチする必要はなくなり、赤単色に戻る。だがヴィンテージで何を得る?レガシーの禁止卡に火力はなく、バーンが欲しがりそうな卡はせいぜいWheel of Fortune程度のものだろう。他、Mox RubyとBlack Lotusが入るが、このマナ基盤強化は全デッキに共通であり特筆に値しない。
c.妨害の脆弱性
序論の項で、「コンボと妨害が高レベルに釣り合っているのでゲームスピードが速くならない」と述べた。そういう環境にバーンのような妨害のないデッキを放り込んだら、コンボがやりたい放題やるのを指をくわえて見ているだけとなることが容易に想像される。
3.克服
前項で3つの仮説を挙げた。これらを克服するためには?
c.については既に答えがある。大歓楽の幻霊だ。こいつは単純にクロックとして強力であるばかりか、相手が大量の呪文を唱えること自体を抑制する。既にモダン・レガシーのバーンで4枚確定の強卡であるが、軽量呪文がより大量にやり取りされ、土地扱いのMoxも標準搭載されているヴィンテージはひときわ強力な卡となる。そこで、こいつ4枚では飽き足らず、紅蓮光電の柱、さらには瘡蓋族の狂戦士をもフル投入してみる。これらを除去できなければ、相手プレイヤーはそのゲームにおいて9回(殴りが入れば8回)までしかスペルを詠唱することができず、特にストームはその勝利手段を閉じられる。以下では、これらの能力を「柱能力」と略して呼ぶことにしたい。
a.については逆説的な克服が見出される。そもそもバーンはデッキ全部を火力にすることをもってその効用を最大化するデッキなのであり、他の戦略を混ぜること自体が下策である(初心者がよく作る、バーンとハンデスを組み合わせたラクドスデッキを思い起こして欲しい)。ところが12枚搭載された柱能力の下では、ライフはリソースでもある。通常、バーンにおいて、稲妻を相手本体にプレイすることは、相手のライフ減しか意味しない。しかしながら、大歓楽の幻霊が置かれているとき、稲妻は「ライフ-3 & ゲーム中に使える呪文の総数-1」を意味する。単一の戦略に複数の意味を内包させる、これがa.への解答である。
4.デッキリスト
これまでの考えをまとめるとこうなった。
本デッキの構築(未だ途上ではあるが)にあたっては、添削氏に提供いただいたdiscordで大変多くの意見をいただいた。深甚なる感謝を申し上げるとともに、この長いものを読んでいただいた諸賢におかれては、この記事のコメント欄またはdiscordでお知恵をいただければ幸いです。
https://discordapp.com/channels/510683034702577665/510683034702577667
1.序論
ヴィンテージは1ターンキルの横行する殺伐としたフォーマットだ、という誤解は過去のものとなりつつある。ヴィンテージにはアグロ・コントロール・コンボ全てが共存し、対戦の大多数において、勝者となるのは対戦相手の意図を読み切り出し抜いた者である。すなわち、このフォーマットは他と比べて特殊であったり異常である訳ではない。この辺りは以前も一度書いたことがある。
https://bagupokemon.diarynote.jp/201312222131376993/
この記事から5年の歳月において、ヴィンテージには20以上のセットが追加され、メタの中心もクロック・パーミッション勢から逆説へと移った。だが、下掲の趣旨2点は今も変わりない。
・Solomoxenはヴィンテージ特有のマナ加速と考えられているが、1ターンキルのみを考えるならレガシーの卡槽で同等の効果を再現できる
・ヴィンテージはコンボ性能だけでなく妨害も最高級の卡が揃っており、それらの均衡によって一定のゲームスピードが保たれている
ここで一つの問題提起がある。ヴィンテージとレガシーの速度に大差がないのなら、なぜバーンデッキはレガシーにのみ成立し、ヴィンテージにおいて成立しないのか?
2.逆境としてのヴィンテージ
これについては、いくつかの仮説を試みることができるだろう。僕が考えるならば...
a.戦略の単純性
一般に、デッキは複数の戦略の結合から成り立つ。技巧あるプレイヤーは、構築やプレイングはたまたサイドボーディングのレベルでそれらの比率を操作し、勝利に近づく。例を挙げてみよう。
・パーミッションは、ドローとカウンターの結合である。アグロと当たった場合、カウンターを序盤から使っていって相手がクロックを確立することを許さないことが主眼であり、ドローは息切れ防止の手段となる。同系と当たった場合、ドローによる手数で上回った者が勝者であり、カウンターは自分のドローを通し相手のドローを通さないために使うべきだ。
・Workshopは、アーティファクトしか使えないというデッキ構築上の大幅な制約と引き換えに圧倒的なマナ生産力を実現する。その土台の上にロックとクリーチャーを両立したデッキである。その歴史を顧みれば、かつてロックが主・クリーチャーが従であったところ、B/R改訂を含む卡槽の変遷により主従の逆転が起こったといえる。しかしながら、Workshopの使い手はサイドボーディングにおいてロック:クリーチャーの比率を調節する:相手が逆説ならばクリーチャーを減らして無のロッド等のロックを追加し、ビッグプレイを封じることが何より重要だ。一方、同系を含むアグロに遭遇した場合は盤面を見据える必要があるーロックを減らして先駆のゴーレムといった制圧力あるクリーチャーを投入する。
自分のデッキに内包された戦略とその相互作用を把握し、相手に応じてその分量を調整することはフォーマットを問わず行われることだ。しかしながら、ヴィンテージにおいてはデッキを特定の方針へと特化させようとする傾向が強い。Workshopやドレッジに代表される極端なデッキリストは、その証明だ。それゆえ、右の技術はヴィンテージで特に重視されると言ってよかろう。
バーンにあるのは山と炎だけだ。デッキ全部が同じ役割で統一されている。ゆえにどのようなデッキが相手でも自分の道を突き進むことしかできず、脆い。
b.レガシーからの進化の乏しさ
あるアーキタイプが複数のフォーマットで構築されることは多い。例えばドレッジは、フォーマットによる進化が容易に見て取れるアーキタイプの1つだ。モダンではそこまで素早く墓地を肥やすことができない。これがレガシーでは打開・LEDによって初手手札全捨てまで可能となる。そしてヴィンテージでは狂気に満ちた土地Bazaar of Baghdadを手にする。
バーンの場合、モダンからレガシーにかけての進化は明らかだ。最も稲妻に近い1マナ3点火力:稲妻の連鎖。未曾有の0マナ4点火力:火炎破。そして:発展の対価。これら高パフォーマンス呪文が加入することにより、バーンはもはやボロスの魔除け等のために白をタッチする必要はなくなり、赤単色に戻る。だがヴィンテージで何を得る?レガシーの禁止卡に火力はなく、バーンが欲しがりそうな卡はせいぜいWheel of Fortune程度のものだろう。他、Mox RubyとBlack Lotusが入るが、このマナ基盤強化は全デッキに共通であり特筆に値しない。
c.妨害の脆弱性
序論の項で、「コンボと妨害が高レベルに釣り合っているのでゲームスピードが速くならない」と述べた。そういう環境にバーンのような妨害のないデッキを放り込んだら、コンボがやりたい放題やるのを指をくわえて見ているだけとなることが容易に想像される。
3.克服
前項で3つの仮説を挙げた。これらを克服するためには?
c.については既に答えがある。大歓楽の幻霊だ。こいつは単純にクロックとして強力であるばかりか、相手が大量の呪文を唱えること自体を抑制する。既にモダン・レガシーのバーンで4枚確定の強卡であるが、軽量呪文がより大量にやり取りされ、土地扱いのMoxも標準搭載されているヴィンテージはひときわ強力な卡となる。そこで、こいつ4枚では飽き足らず、紅蓮光電の柱、さらには瘡蓋族の狂戦士をもフル投入してみる。これらを除去できなければ、相手プレイヤーはそのゲームにおいて9回(殴りが入れば8回)までしかスペルを詠唱することができず、特にストームはその勝利手段を閉じられる。以下では、これらの能力を「柱能力」と略して呼ぶことにしたい。
Eidolon of the Great Revel / 大歓楽の幻霊 (赤)(赤)
クリーチャー エンチャント — スピリット(Spirit)
プレイヤーが点数で見たマナ・コストが3点以下の呪文を1つ唱えるたび、大歓楽の幻霊はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
2/2
Pyrostatic Pillar / 紅蓮光電の柱 (1)(赤)
エンチャント
プレイヤー1人が点数で見たマナ・コストが3点以下の呪文を唱えるたび、紅蓮光電の柱はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
Scab-Clan Berserker / 瘡蓋族の狂戦士 (1)(赤)(赤)柱能力は同時にまた、仮説b.を克服することにもつながる。確かに上記3枚はレガシーリーガルの卡だ。しかしながら、軽量呪文がより多いヴィンテージにおいて、これら3枚はレガシーより実質的に強化された卡といえるだろう。
クリーチャー — 人間(Human) 狂戦士(Berserker)
速攻
高名1(このクリーチャーがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えたとき、これが高名でない場合、これの上に+1/+1カウンターを1個置く。これは高名になる。)
対戦相手がクリーチャーでない呪文を1つ唱えるたび、瘡蓋族の狂戦士が高名である場合、瘡蓋族の狂戦士はそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
2/2
a.については逆説的な克服が見出される。そもそもバーンはデッキ全部を火力にすることをもってその効用を最大化するデッキなのであり、他の戦略を混ぜること自体が下策である(初心者がよく作る、バーンとハンデスを組み合わせたラクドスデッキを思い起こして欲しい)。ところが12枚搭載された柱能力の下では、ライフはリソースでもある。通常、バーンにおいて、稲妻を相手本体にプレイすることは、相手のライフ減しか意味しない。しかしながら、大歓楽の幻霊が置かれているとき、稲妻は「ライフ-3 & ゲーム中に使える呪文の総数-1」を意味する。単一の戦略に複数の意味を内包させる、これがa.への解答である。
4.デッキリスト
これまでの考えをまとめるとこうなった。
// 60 メインデッキ柱能力、及びそれを1ターン目に展開するためのマナ加速がデッキの核といえる。また過酷な指導者も起動型能力に対する柱能力であり、その汎用性は高い。ほか、逆説とWorkshopを注視しながらヴィンテージ環境に最低限ついていくためのクリーチャーを増量していくとこんな様相になり、バーンの象徴たる稲妻さえも1枚カットせざるを得なかった。これはバーンというよりは赤単ヘイトベアーではないか、との指摘もいただいた。実際、白系のヘイトベアーがマナの拘束により1ターンあたりの呪文詠唱を抑えるとすれば、こちらはライフの拘束により1ゲーム全体での呪文詠唱に制限を掛けるデッキであり、目的とするところは似通っている。
// 3 Artifact
1 Mox Ruby
1 Black Lotus
1 Lotus Petal
// 22 Creature
4 Eidolon of the Great Revel
4 Simian Spirit Guide
4 Scab-Clan Berserker
4 Harsh Mentor
4 Goblin Cratermaker
2 Goblin Chainwhirler
// 4 Enchantment
4 Pyrostatic Pillar
// 14 Instant
1 Pyroblast
1 Red Elemental Blast
4 Price of Progress
4 Smash to Smithereens
3 Lightning Bolt
1 Fireblast
// 17 Land
1 Barbarian Ring
2 Cavern of Souls
14 Mountain
// 15 サイドボード
// 8 Artifact
SB: 3 Grafdigger’s Cage
SB: 2 Pithing Needle
SB: 3 Tormod’s Crypt
// 2 Creature
SB: 2 Hammer Mage
// 4 Instant
SB: 4 Abrade
// 1 Sorcery
SB: 1 Pulverize
本デッキの構築(未だ途上ではあるが)にあたっては、添削氏に提供いただいたdiscordで大変多くの意見をいただいた。深甚なる感謝を申し上げるとともに、この長いものを読んでいただいた諸賢におかれては、この記事のコメント欄またはdiscordでお知恵をいただければ幸いです。
https://discordapp.com/channels/510683034702577665/510683034702577667
コメント
Mental Misstep覚悟でRite of Flame入れるか、Eidolon of the Great Revel出せないのをあきらめてElvish Spirit Guideが有力そうです。
その分減るのは、
・Goblin Chainwhirler(Steel Overseerはサイドから対応できる)、
・Lightning Bolt(Burnの象徴ですが1対1交換はドローがないBurnには割安とはいえない)、
・Pyroblast/Red Elemental Blast(Mental Misstepの支援のない1マナ呪文はなかなか通らない。逆説相手に山立たせて待っているのなら、柱を1枚でも多く出すことを狙いたい)
あたりでしょうか。
アドバイスありがとうございます!!
大歓楽召喚を重視してRite of Flameを1枚差し込んでみたいと思います。Mstepは痛いですが1:1交換で2点払わせたと思えば悪い選択ではなく、またデッキをベルチャーか何かかと誤認してくれてカウンターを構える動きに転じてくれればむしろ嬉しい。
抜くのは涙を呑んで稲妻にしたいと思います。鎖回しはデッキパワーの維持に必要だと思っているのと、紅蓮破は柱能力下でカウンターすることで相手を追い込むことを狙っているので、デッキの動きに必須ではない所から抜けていく感じで...。