http://www.starcitygames.com/article/29653_Getting-On-The-Banwagon.html
Brianは上記事において,前回(http://urx.nu/dQ5O)に引き続いてエターナルにおける巡航規制の問題について議論している.彼はモダン・レガシー・ヴィンテージの3フォーマットのB/R listを調べ,そのいずれにも巡航より劣る卡が含まれていることを指摘する.それを論拠として巡航ほか数枚の卡の禁止/制限および,巡航より弱い卡の解除を訴える.非常に頷ける意見も多いが,卡力の点をやや重視しすぎではないかとも感じられる.
ウィザーズは禁止の理由として,ゲームのバランスよりも楽しさがより重要であると明言している.今環境に突出した強さの卡があり,それによって特定デッキの一強状態となっていても,直ちに規制を要するわけではない.それがプレイヤーの「あの卡はもう見るのも嫌になった」「このデッキばかりで飽きた」と不満の声になったとき,初めて問題となるのである.
その点,巡航の強さはともかく方向性はそこまで嫌われ者とは言えないだろう,なぜなら巡航は厳重なロックを掛けたり,1ターン目にコンボを完成させたりとった,対戦相手をマジックに参加させない類ではない.むしろ数ターンの駆け引きの後,突然安すぎるコストで圧倒的な優勢を得られてしまう点が問題である.その意味で既存の禁止卡の中で近いものを探すとすれば,血編み髪のエルフあたりではないかと思われる.
では次に存在率ではどうか,巡航を使えるデッキだけが勝ち上がり,多様性を損ねていないかという問題がある.先の血編み髪もそれで規制された口だが,彼女が住み慣れたジャンド以外では働こうとしなかったのに対し,巡航はシングルシンボルの上,探査も普通にやっていれば4ターンには貯まる.その結果クロックパーミッション(UR Delver,RUG Delver,UWR Delver,BUG Delverなど多岐にわたる...これが)なら誰でも巡航の恩恵に浴している状況であり,一概には同列視できない.そうすると次に生じる心配は,クロックパーミッション以外のコントロールやコンボが隅に追いやられ,プレイヤーを倦厭させているのではというものだ.これは各フォーマットを微細に見ていくしかないだろう.
レガシーに関しては,ごはんは飯屋さんの紹介されていたBob Huangの記事が詳しい.http://www.channelfireball.com/articles/november-2014-legacy-metagame-analysis/ ここでは大規模大会の上位入賞者を集計した結果,タルキール以降で最も成功しているのはUR Delver(14デッキ)ではなく,21デッキの奇跡であることがわかった.Delver系統を全部合算しても30デッキであり,コンボもエルフ!9デッキ,ANT・SNTがそれぞれ7デッキと十分な数字である.このように,レガシーでは巡航後もメタの健全性は保たれていたのである.
さて,Bobは巡航問題について,モダンでは禁止すべきであるのに対し,ヴィンテージでも壊れた強さではあるが規制の必要はないとしているが,具体的な数字までは示してくれなかった.mtgdecksはごく小規模な大会でも掲載するので,勝ち抜いているデッキを把握するには不向きなサイトだ.あまり気は進まないが,ともかくその分析を見てみよう.
右上図がモダンの10月のメタである.首位がUR Delver,続いてバーン,そして3位が巡航の関係ない親和という結果で,この傾向は11月に入るとさらに進んでいる.トップ1,2位が共に巡航を鍵卡とした同色のデッキとは,確かにちょっと不健全か.
下図のヴィンテージでは,10月最も成果を収めたのはGAT(主にUR Delver)ではなくMUDであり,それに次ぐFish(墓荒らしとか色々.mtgdecksの欠点としてアレンジが非常に適当)も巡航採用は1件しかなかった.直近1ヶ月(つまり10/7~今日)のデータでは,MUDとGATが入れ替わったが,それ以上の大きな変化はない.また,使用枚数を見ても,モダンが10位だったのに対して(制限が多く,有利な条件なのにも関わらず)ヴィンテージでは37位で,これはMox Pearlと同着である.宝船の巡航がもたらした影響は確かに甚大なものがある,しかしバランスを破壊したとまでは言えない.
Brianの記事に戻り,その提言を僕なりに考えれば,次のようになる.
ヴィンテージ:
宝船の巡航,グリセルブランド,虚空の杯 制限
けちな贈り物 制限解除
宝船の巡航については上に述べたような理由から反対だ.
しかし,グリセルブランドは難しい.実際,グリセルオースは規制されても仕方ない程度には強いデッキだ.ところで昨夜,相互リンク頂いているkreuzさんのブログに「グリセル規制するくらいならオース制限の方がまだ妥当じゃないでしょうかね」とコメントした.これはオースの構造上グリセルを制限しても事故がいくぶん増える程度で,それとて先読み/See Beyondやガイアの祝福/Gaea’s Blessingでどうとでもなる問題だと考えたからだが,今は考えを改めている.ドルイドの誓いを制限することはオースというアーキタイプ全体の消滅を意味し,グリセルブランド以外の比較的穏健なタイプまで巻き添えにしてしまう.グリセル制限は,プレイヤーに上のような少し見劣りする卡を投入することでデッキパワーの低下を受け入れるか,またはイオナ・エムラクールといった以前のバージョンに戻るかの選択を迫ることができる,過不足のないやり方ではないかと思えてきた.とはいえ,やはりエレガントさにはいささか欠ける.いま仮に,僕がオースを弱体化させる方法を考えるよう指示されたとしたら,禁忌の果樹園を考慮に入れるだろう,これはオースの中核的な土地だが,これの登場した10年前に比べてビートダウンは激増しているし,ノンクリーチャーデッキは絶無に等しくなった.加えて白鳥の歌や内にいる獣といったトークン押し付け手段は他にも確保されており,果樹園が制限されてもオースの存在意義を奪う結果にはならず,メタにも十分残れると思う.もっとも,封じ込めおばさんが出たから規制しなくて大丈夫だと思うが.
次の虚空の杯は賛成だ.まず前提としてMUDもヴィンテージ最強の一角だし,先手後手がとりわけ重要なデッキのため運要素がやや強すぎるきらいもある.規制の候補としては,採用率で言えばもちろん磁石のゴーレムが最右翼に来るが(Kuldotha型などではチャリスが抜かれる場合も稀にある),先手の強みを薄めようとすれば,虚空の杯が最も適任と思われる.それは先攻1ターン目の拘束の中ではチャリスX=0が最も軽く,それゆえに抵抗の宝球など他のアーティファクトとの二段構えのマナ攻撃を仕掛けることができるためだ.これは最大の敵であるFoWへの強い耐性をもたらす.もちろんFoWがなくて両方とも通るようならeasy winコースである.
けちな贈り物が制限されて以来,テーマである墓地のスペル利用関連では瞬唱の魔道士・炎の中の過去・有毒の蘇生と上質な人材が加わった.しかし一方で墓地対策も相応に進化したのみならず,狼狽の嵐や精神壊しの罠によって,こうした「大技」に対する抑制はかなり強まった.ギフトが巡航より弱いとするBrianの主張には賛成できないが(役割が違うし,卡力の絶対値をとってみたとしてもまあ五分五分だろう)解除してもメタに与える影響は,噴出の場合を越えないだろう.ここもBrianに同意だ.
レガシー:
宝船の巡航 禁止
精神錯乱 解除
どちらにも理がある.特に精神錯乱はHymnより強い場面が少なそうだから解除しても大丈夫だろう.ツイストだけ解除したら巡航と睨み合ってくれたりしないだろうか?
モダン:
宝船の巡航,ジェスカイの隆盛 禁止
祖先の幻視 解除
巡航と幻視はとりわけよく似た卡だ.このまま巡航を放置し,幻視を禁止に据え置くのは筋が通らないだろう.血編み髪の禁止によって弱体化したのもあるし,この入れ替えは賛成かな.しかし,この場合隆盛コンボの安定性もかなり落ちると思うので,ジェスカイの隆盛禁止はどうだろう.
最後になるが,この記事で最も感銘を受けたのは実は命運縫い/Fatestitcherの紹介だった.確かにこいつはジェスカイの隆盛と最高に相性が良い.特にマナクリーチャーがいない状態からスタートしてもターン中に相手を殺せるのが大きい.ヴィンテージで何度も見ておきながら,なぜ今までこいつの存在に気づかなかったのだろうか?
Brianは上記事において,前回(http://urx.nu/dQ5O)に引き続いてエターナルにおける巡航規制の問題について議論している.彼はモダン・レガシー・ヴィンテージの3フォーマットのB/R listを調べ,そのいずれにも巡航より劣る卡が含まれていることを指摘する.それを論拠として巡航ほか数枚の卡の禁止/制限および,巡航より弱い卡の解除を訴える.非常に頷ける意見も多いが,卡力の点をやや重視しすぎではないかとも感じられる.
ウィザーズは禁止の理由として,ゲームのバランスよりも楽しさがより重要であると明言している.今環境に突出した強さの卡があり,それによって特定デッキの一強状態となっていても,直ちに規制を要するわけではない.それがプレイヤーの「あの卡はもう見るのも嫌になった」「このデッキばかりで飽きた」と不満の声になったとき,初めて問題となるのである.
その点,巡航の強さはともかく方向性はそこまで嫌われ者とは言えないだろう,なぜなら巡航は厳重なロックを掛けたり,1ターン目にコンボを完成させたりとった,対戦相手をマジックに参加させない類ではない.むしろ数ターンの駆け引きの後,突然安すぎるコストで圧倒的な優勢を得られてしまう点が問題である.その意味で既存の禁止卡の中で近いものを探すとすれば,血編み髪のエルフあたりではないかと思われる.
では次に存在率ではどうか,巡航を使えるデッキだけが勝ち上がり,多様性を損ねていないかという問題がある.先の血編み髪もそれで規制された口だが,彼女が住み慣れたジャンド以外では働こうとしなかったのに対し,巡航はシングルシンボルの上,探査も普通にやっていれば4ターンには貯まる.その結果クロックパーミッション(UR Delver,RUG Delver,UWR Delver,BUG Delverなど多岐にわたる...これが)なら誰でも巡航の恩恵に浴している状況であり,一概には同列視できない.そうすると次に生じる心配は,クロックパーミッション以外のコントロールやコンボが隅に追いやられ,プレイヤーを倦厭させているのではというものだ.これは各フォーマットを微細に見ていくしかないだろう.
レガシーに関しては,ごはんは飯屋さんの紹介されていたBob Huangの記事が詳しい.http://www.channelfireball.com/articles/november-2014-legacy-metagame-analysis/ ここでは大規模大会の上位入賞者を集計した結果,タルキール以降で最も成功しているのはUR Delver(14デッキ)ではなく,21デッキの奇跡であることがわかった.Delver系統を全部合算しても30デッキであり,コンボもエルフ!9デッキ,ANT・SNTがそれぞれ7デッキと十分な数字である.このように,レガシーでは巡航後もメタの健全性は保たれていたのである.
さて,Bobは巡航問題について,モダンでは禁止すべきであるのに対し,ヴィンテージでも壊れた強さではあるが規制の必要はないとしているが,具体的な数字までは示してくれなかった.mtgdecksはごく小規模な大会でも掲載するので,勝ち抜いているデッキを把握するには不向きなサイトだ.あまり気は進まないが,ともかくその分析を見てみよう.
右上図がモダンの10月のメタである.首位がUR Delver,続いてバーン,そして3位が巡航の関係ない親和という結果で,この傾向は11月に入るとさらに進んでいる.トップ1,2位が共に巡航を鍵卡とした同色のデッキとは,確かにちょっと不健全か.
下図のヴィンテージでは,10月最も成果を収めたのはGAT(主にUR Delver)ではなくMUDであり,それに次ぐFish(墓荒らしとか色々.mtgdecksの欠点としてアレンジが非常に適当)も巡航採用は1件しかなかった.直近1ヶ月(つまり10/7~今日)のデータでは,MUDとGATが入れ替わったが,それ以上の大きな変化はない.また,使用枚数を見ても,モダンが10位だったのに対して(制限が多く,有利な条件なのにも関わらず)ヴィンテージでは37位で,これはMox Pearlと同着である.宝船の巡航がもたらした影響は確かに甚大なものがある,しかしバランスを破壊したとまでは言えない.
Brianの記事に戻り,その提言を僕なりに考えれば,次のようになる.
ヴィンテージ:
宝船の巡航,グリセルブランド,虚空の杯 制限
けちな贈り物 制限解除
宝船の巡航については上に述べたような理由から反対だ.
しかし,グリセルブランドは難しい.実際,グリセルオースは規制されても仕方ない程度には強いデッキだ.ところで昨夜,相互リンク頂いているkreuzさんのブログに「グリセル規制するくらいならオース制限の方がまだ妥当じゃないでしょうかね」とコメントした.これはオースの構造上グリセルを制限しても事故がいくぶん増える程度で,それとて先読み/See Beyondやガイアの祝福/Gaea’s Blessingでどうとでもなる問題だと考えたからだが,今は考えを改めている.ドルイドの誓いを制限することはオースというアーキタイプ全体の消滅を意味し,グリセルブランド以外の比較的穏健なタイプまで巻き添えにしてしまう.グリセル制限は,プレイヤーに上のような少し見劣りする卡を投入することでデッキパワーの低下を受け入れるか,またはイオナ・エムラクールといった以前のバージョンに戻るかの選択を迫ることができる,過不足のないやり方ではないかと思えてきた.とはいえ,やはりエレガントさにはいささか欠ける.いま仮に,僕がオースを弱体化させる方法を考えるよう指示されたとしたら,禁忌の果樹園を考慮に入れるだろう,これはオースの中核的な土地だが,これの登場した10年前に比べてビートダウンは激増しているし,ノンクリーチャーデッキは絶無に等しくなった.加えて白鳥の歌や内にいる獣といったトークン押し付け手段は他にも確保されており,果樹園が制限されてもオースの存在意義を奪う結果にはならず,メタにも十分残れると思う.もっとも,封じ込めおばさんが出たから規制しなくて大丈夫だと思うが.
次の虚空の杯は賛成だ.まず前提としてMUDもヴィンテージ最強の一角だし,先手後手がとりわけ重要なデッキのため運要素がやや強すぎるきらいもある.規制の候補としては,採用率で言えばもちろん磁石のゴーレムが最右翼に来るが(Kuldotha型などではチャリスが抜かれる場合も稀にある),先手の強みを薄めようとすれば,虚空の杯が最も適任と思われる.それは先攻1ターン目の拘束の中ではチャリスX=0が最も軽く,それゆえに抵抗の宝球など他のアーティファクトとの二段構えのマナ攻撃を仕掛けることができるためだ.これは最大の敵であるFoWへの強い耐性をもたらす.もちろんFoWがなくて両方とも通るようならeasy winコースである.
けちな贈り物が制限されて以来,テーマである墓地のスペル利用関連では瞬唱の魔道士・炎の中の過去・有毒の蘇生と上質な人材が加わった.しかし一方で墓地対策も相応に進化したのみならず,狼狽の嵐や精神壊しの罠によって,こうした「大技」に対する抑制はかなり強まった.ギフトが巡航より弱いとするBrianの主張には賛成できないが(役割が違うし,卡力の絶対値をとってみたとしてもまあ五分五分だろう)解除してもメタに与える影響は,噴出の場合を越えないだろう.ここもBrianに同意だ.
レガシー:
宝船の巡航 禁止
精神錯乱 解除
どちらにも理がある.特に精神錯乱はHymnより強い場面が少なそうだから解除しても大丈夫だろう.ツイストだけ解除したら巡航と睨み合ってくれたりしないだろうか?
モダン:
宝船の巡航,ジェスカイの隆盛 禁止
祖先の幻視 解除
巡航と幻視はとりわけよく似た卡だ.このまま巡航を放置し,幻視を禁止に据え置くのは筋が通らないだろう.血編み髪の禁止によって弱体化したのもあるし,この入れ替えは賛成かな.しかし,この場合隆盛コンボの安定性もかなり落ちると思うので,ジェスカイの隆盛禁止はどうだろう.
最後になるが,この記事で最も感銘を受けたのは実は命運縫い/Fatestitcherの紹介だった.確かにこいつはジェスカイの隆盛と最高に相性が良い.特にマナクリーチャーがいない状態からスタートしてもターン中に相手を殺せるのが大きい.ヴィンテージで何度も見ておきながら,なぜ今までこいつの存在に気づかなかったのだろうか?
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