ローマ人の物語

2013年12月19日 読書
塩野七生の代表作「ローマ人の物語」は,「人」を主題としているという特徴がある.例えば,ハドリアヌスの男娼アンティノーが自殺したなどというエピソードは多くの歴史書において些事として片付けられるのだろうが,本書ではアンティノー本人の心中を思い描きながら,自殺の真意に迫っていくといった具合である.さらには税制をはじめキリスト教の拡大,ローマの身分制度というような,社会全般の動向に対しても,その構成員(ローマ市民)一人ひとりの素朴な心情にまで降りてくる分析のしかたをする.こうした構成,またその考察からうかがえる,筆者のローマ史に向けられた眼差しの暖かさ,また豊かな人生経験に基づく識見の高さ.これらが「ローマ人の物語」をして類稀な名作たらしめる源となったことは明らかだ.

しかし僕がこの名著について唯一我慢ならないこともまた,この構造に由来するものである.と言うのは,塩野七生のカエサルという個人に向けられた愛が時として暴走し,特段必要のない箇所にまで彼の名前とその業績を滑りこませてくるのだ.

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